産業医は、常時50人以上の従業員を抱える事業場においては、必ず設置しなければなりません。従業員が50人になると、さまざまな義務が課せられるため、とくに事業者は詳細を知っておかなければなりません。この記事では、50人以上の事業場に義務付けられている制度について詳しく解説します。
事業場の定義
そもそも、事業場はどのようにカウントされるのでしょうか。事業場の範囲について正しく理解することは、法令や制度における義務を考えるうえで大変重要です。
基本的に支社は別事業場
仮に、東京本社と大阪支社があった場合、事業場はそれぞれを別個の場所としてカウントします。これは、両者が物理的に離れており、それぞれが独立して活動しているためです。
例外も存在する
支社や出張所の従業員が50人に満たなくても、近隣の事業場と密接に関連している場合、ひとつの事業場として数えることがあります。具体的には、大阪支社に47人、神戸の出張所に3人の従業員がいる場合、これらを合算して50人の事業場とする可能性があるので注意が必要です。
また、同じ敷地内にあっても、労働内容が大きく異なる場合には別の事業場として扱うことがあります。労働安全衛生法の適性運用のために、製造工場の敷地内に診療所が併設されている場合は別個のものとして数えるなど、ときに柔軟な運用が認められている制度です。
従業員50人以上の事業所で発生する労働法令上の義務とは
従業員が50人を超える事業場では、労働安全衛生法やその関連規則の対象となり、事業者に対して特定の義務が課されます。
衛生管理者の選任と衛生委員会設置
衛生管理者は、事業場における労働環境の管理を担います。毎週1回以上職場を巡視し、問題を発見次第、速やかに措置を講じなければなりません。選任後、14日以内に労働基準監督署への届け出も求められます。
また、衛生委員会は、労働者の健康障害を防ぐ対策の検討や健康保持増進施策の立案、労働災害の原因究明と再発防止策などを検討する場です。毎月1回以上の開催が必要であり、内容は議事録として3年間保管する義務があります。産業医の参加が望ましいため、職場巡視の日程と調整して開催すると効率的です。
安全管理者の選任と安全委員会設置
特定の業種では、安全管理者の選任や安全委員会の設置も義務付けられます。これらは、職場における危険防止や安全対策を検討するためのもので、林業、建設業、運送業などの業種では選任と設置が必要です。
産業医の選任
産業医は、従業員50人以上の事業場において、選任が義務付けられています。職場を定期的に巡視し、問題が発見された場合には改善策を提案するなど、従業員の健康障害を未然に防ぐ役割を果たしています。
また、1,000人以上の従業員がいる事業場や、500人以上の労働者が有害業務に従事している場合は、専属産業医を設置する義務があることに注意が必要です。
ストレスチェックの実施
従業員50人以上の事業場では、労働者のメンタルヘルス不調を防ぐため、年に1回のストレスチェックが義務付けられています。
このチェックは、従業員自身がストレスの状況を把握するためのものであり、結果を集計して職場環境の改善につなげることが目的です。ストレスチェックの結果は匿名化され、従業員のプライバシーが守られます。
健康診断の実施・報告
労働者に対する健康診断も、義務のひとつです。1年以上雇用する予定の従業員を対象に、毎年1回実施することが義務付けられており、診断結果をまとめて労働基準監督署へ報告する必要があります。これにより、労働者の健康状態を管理し、重大な健康障害を未然に防ぎます。
休養室または休養所の設置
従業員が体調不良になった際に、一時的に休息できる部屋を設置する義務も生じます。
従業員50人以上の事業場でなくても発生する労働法令上の義務
労働者の健康や安全は、従業員数に関係なく全ての事業場で守られなけれなならない、事業者に欠かせない考え方です。加えて、従業員が50人未満の事業場でも、労働者の健康や安全を守るために従うべき義務があることを知っておきましょう。
安全衛生教育の実施
すべての事業場において、新たに従業員を採用した際や、作業内容が変更された際に実施する教育です。安全衛生教育には、機械操作にともなうリスク、使用する化学物質の取り扱い方法、安全装備の使用方法などが含まれます。
作業環境測定の実施
従業員が、有害物質や騒音、高熱などの影響を受ける可能性のある職場では、作業環境測定を定期的に実施する必要があります。この測定では、粉じんや有害ガス、作業場の騒音レベル、温度や湿度などを計測し、基準値を超えた場合には改善策を講じます。
作業管理の徹底
作業管理は、従業員が安全に作業できる環境を維持する取り組みです。たとえば、使用する物質をより安全なものに切り替えることや、保護具を支給することなどが含まれます。また、複雑な作業をシンプル化することで、事故のリスクを減らす効果も期待できます。
健康診断の実施
健康診断は、事業場の人数にかかわらず、すべての事業場に義務付けられています。正社員に限らず、一定の勤務時間を超えるパートや派遣社員も対象です。年1回の定期健康診断に加え、雇い入れ時や特定の作業に従事する際など、さまざまなタイミングで求められます。
長時間労働者への指導
長時間の時間外労働や休日労働を行った従業員に対しては、専門家による面接指導を実施しなければなりません。この指導は、従業員の健康状態を把握し、健康障害を防止することを目的としています。
まとめ
常時50人以上の事業場では、産業医の選任が義務付けられているだけでなく、その他にも多岐にわたる活動が求められます。法令を遵守し、適切に運用することで、従業員の安全と健康が確保されて企業の信頼性向上にもつながるのです。50人というラインでさまざまな義務は発生しなくなりますが、事業場の規模に関わらず、職場環境と従業員の健康を大切にする姿勢が求められます。