産業医は、従業員の健康を守るうえで欠かせない存在です。しかし、産業医との関係がうまくいかない場合や、業務内容に不満が生じた場合には交代を検討することもあるでしょう。この記事では、産業医を交代する際に注意すべきポイントや、変更がむずかしい場合の対処法について分かりやすく解説します。
産業医を交代させたいと考える理由
企業が産業医の交代を検討する背景には、さまざまな問題や課題が挙げられます。ここでは、よく見られる理由を解説します。
職務を果たさない
産業医は、健康診断の結果に基づく対応や職場巡視、長時間労働者への対応など、多岐にわたる業務を担う存在です。
しかし、一部の産業医は制度の重要性や具体的な運用方法を十分に理解しておらず、面談やストレスチェックの実施者としての役割などを引き受けないことがあります。このようなケースでは、労働者の健康を守るための対策が滞ってしまいます。
コミュニケーション不足
産業医と企業間のコミュニケーション不足も、よく見られる課題のひとつです。従業員の健康を守る活動を円滑に進めるためには、産業医が企業のニーズを理解し、協力して推進する必要があります。
しかし、企業への歩み寄りが不足することで、産業医の職務が十分に果たされないケースがあります。このような場合、企業はコミュニケーションの改善を試みるだけでなく、産業医の交代を視野に入れなければなりません。
課題を解決できない
企業の課題と産業医の専門分野のミスマッチも、交代を考える理由のひとつです。産業医には、それぞれ内科や精神科といった専門領域があります。
そのため、企業が産業医選任時に自社のニーズを十分に検討せず選任を進めた場合、専門知識が必要な場面で十分な対応ができない可能性があります。
産業医が精神的なサポートに不慣れである場合、従業員のメンタルヘルスケアが十分に行われず、問題が深刻化するかもしれません。
産業医変更の手続き
企業が産業医を変更する際には、労働安全衛生規則に基づき、適切な手続きを進める必要があります。新たな産業医を選任した場合、その選任後14日以内に「産業医選任報告」を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。
書類入手
産業医選任報告書の書類は、近くの労働基準監督署を訪問して窓口で書類を受け取るか、厚生労働省の公式サイトで書類をダウンロード、印刷して入手します。また、厚生労働省が提供するインターネット上での入力支援サービスでは、オンライン上で報告書を作成でき、非常に便利です。
このサービスは、登録や事前申請が不要で、誤入力や未入力を防止する機能が備わっているため、手続きがスムーズです。また、一度作成したデータが保存されるため、今後の報告手続きにも役立てられます。
提出
労働基準監督署の窓口へ、報告書を持参するなど、複数の提出方法があります。窓口提出の場合、受付時間や休業日を事前に確認しておくことが重要です。また、郵送での提出も可能です。その他、e-Gov電子申請システムを利用することで、24時間365日、オンラインで提出できます。
必要書類を電子ファイル化してアップロードするだけであり、手間を省けるのがメリットです。しかし、システムメンテナンスや不具合が発生する可能性もあるため、時間の余裕をもった対応が必要です。
添付書類
産業医選任報告には、医師免許証のコピーと、産業医証明書類の添付が必要です。これらの書類がスムーズに揃うよう、新たに選任した産業医と事前連携を綿密にとり、必要書類を早めに準備してもらいましょう。
産業医が変更できない場合はどうすればいい?
企業が産業医を変更したいと考えても、さまざまな理由でその実現がむずかしい場合もあります。産業医のスムーズな変更がむずかしい場合には、2名体制を採用することも検討してください。
既存の産業医を残しながら新たな産業医を追加で選任することで、スケジュールや得意分野に応じた業務分担が可能になります。一方がメンタルヘルスに特化し、もう一方が安全衛生管理を得意とするなど、それぞれの専門性を活かして効率的に業務を進められるでしょう。
産業医の選任人数には法律上、上限が設けられていないため、必要に応じて産業医を増やすことは自由です。ただし、2名体制を採用する際には、現職の産業医とのトラブルを避けるための配慮が重要です。事前にしっかりと話し合い、新たな体制の目的や分担内容をていねいに説明することが欠かせません。
まずは話し合いが重要
2名体制を検討する前に、企業内で産業医との課題や期待する役割について整理しておくことも大切です。たとえば、現在の産業医に対してどのような改善を期待するのかを明確にしたうえで、それを既存の産業医と共有して意見交換することで解決する場合もあります。
すぐに変更や追加を進めるのではなく、現状の課題をしっかりと分析することで、従業員にとって最善の選択ができるでしょう。
まとめ
産業医の交代は、従業員の健康管理体制を見直す重要な機会です。変更を進める際には、現在の産業医との関係性や、企業の課題を整理し、適切な対処法を検討することが大切です。たとえば、2名体制を導入して業務を分担することで、負担を軽減できる場合もあります。複数人での業務分担により問題解決にいたる可能性もあるので、安易に交代するのではなく、まず社内でよく検討してみてください。